› エヌポケット・ぽけっとのなかみ › ICTによる社会参加支援 › 14年間続けてきた県の事業から撤退するわけ(その2)

2015年06月06日

14年間続けてきた県の事業から撤退するわけ(その2)

代表の井ノ上です。
ザザシティ4階にある静岡県西部障害者マルチメディア情報センター(MMC)の管理運営事業はNポケットが愛着をもって続けてきた事業です。
初めは随意契約で、途中から一年毎に公募されたプロポーザルに勝ち抜いて事業を継続させてきたのですが、とうとう昨年度末をもって、公募に手を上げないという苦渋の決断をしました。(その1はこちら

どうして、そうしたのか・・・・

まる(青)”居場所”や専門性は評価されない

 一番大きな問題は事業を続けることによって体力をなくしていく現実があったこと、そして私たちが目指す環境と県が考える現実的な視点の大きな相違も、大きな要因でした。

 要因一つ目。もともとMMCはコミュニケーション支援を中心にしてサービス内容を充実させようと努力してきた流れがあります。特に情報障害者といわれる視覚障害のある人のための環境整備に力を入れてきました。
 また、MMCは障がいのある人やその周辺の人たちにとって、「社会参加を進めるために必要な止まり木」として大きな役目も果たすことができると思っていました。実際に知的障害がある若者たちが集まって自分たちのイベントのチラシ作りをしたり、最近は、就労する精神障害者の会社帰りの楽しみの場でもあったり、ということが多かったからです。
 不安が強い引きこもり等の人が、パソコンをきっかけにして、スタッフに打ち解け「MMCに来ることができる、いることができる」ことさえ、私たちは大きな成果と考えていました。

 しかし、こうしたことはあまり評価の対象にはなりませんでした。特に最近は県から「MMCは居場所ではなく、パソコンを習得するために設けられた場所」という主張を強くされ、事業の位置づけがコミュニケーション支援から、いつの間にか就労支援にうつっていました。当初の提言を見てもわかる通り、多様な人々をつなぐ場所であるなど複合的な役割を果たしてこそ、センターの意味を持つと感じるのですが・・・。
 
 二つ目。福祉サービスについては措置から契約へとなり、必要な情報を自らウェブ上から得ることができるか否かが生活の質を大きく左右しますから、MMCの果たす役割はとても大きいものでした。
 機器やソフトの開発・更新は速いので、そうした状況でのニーズに応えようと、企業から寄付等支援を得て特別な機器の購入や支援技術の導入にも力を入れてきました。
 個々の障害の状況にあった情報機器を選択するためには、障害を正しく評価する技術とともに、機器に対する深い知識が要求されるのですが、こうした人材は非常に限られています。そのための人材養成も力を注ぎました。
 さらに重度の方の支援には、高い専門性が必要で作業療法士の力を借りるケースもあるほどでした。こうした専門性なくして障害のある人への支援はできないのですが、この必然性についての理解も県は十分でないと感じました。

 最近は、障害者向けの安価で便利なアプリも登場して、「MMCはもう要らないのでは」と言われました。逆に活用するためには技術支援が必要なのに。事業をもっと充実させていく必要性を感じる私たちにとって、縮小したい県の方向性は、理解を超える乖離でした。

障害特性に合わせた機器の一例

まる(青)公共施設の委託運営が目指すべきは?

 こうした活動をコーディネートする本部スタッフには人件費はつかず、ほぼボランティアに近い状態で14年間頑張ってきました。しかし、最近は利用者の詳細記録の提出など事務管理も要求されるようになり、無償労働をさらに余儀なくされる現実が続くようになりました。
 因みに県職員一人の年収の半分以下が事業費でした(・_・;
センターにはただワードやエクセルができる人が常駐していればよかったのでしょうか。

 このように、ここ数年、事業費の上でも、モチベーションの上でも、事業の継続に困難が生じてきたのです。事業受託者公募に手をあげないことで、貴重で豊富な人的・物的資源をすべて公的施設であるMMCから引き上げることになります。利用者に大きな不便をかけることは必至で、苦渋の撤退です。皆さんからの寄付でセンターの透明仕切りを購入し、開かれた明るい雰囲気で再出発したばかりですのに…残念です。

 サービス受益者や資金提供者(県=税金)の事情まで述べず、一方的に私たちの事情のみ書いてしまいましたが、公共サービスとして必要なものゆえに、私たちの判断はNPOとしてどんな評価を受けるべきなのでしょうか。

商業施設の中にあったバリアフリーオアシス

 N-Pocketとしての今後は、移動型であったり福祉施設訪問型といった形で、障がいのある人がバリアなく社会参画できるためのICT活動を別の形で続けていきたいと考えています。今後もどうぞご支援のほどお願いいたします。(代表・元ICT事業担当 井ノ上美津恵)


同じカテゴリー(ICTによる社会参加支援)の記事
福祉情報技術の宝箱
福祉情報技術の宝箱(2016-10-12 19:01)


上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
14年間続けてきた県の事業から撤退するわけ(その2)
    コメント(0)